渡辺図鑑 8

 

 

 

 

 

朝目を覚ませば、目の前にはわたしの好きな人の背中。

 

後ろから、ふわふわと気持ちよさそうなしょうたの猫っ毛をさわる。かわいいなあ、なんて。

 

 

しょうたが気づいたのか、起きてこっちを向く。

 

まだ眠そうなしょうたは、子どもみたいでかわいい。(笑)

 

 

「んー…おはよ。さやか〜」

 

『起こしちゃったね。しょうたおはよう。』

 

 

 

笑顔で名前を呼んだら、こっちを見て、照れたみたいに笑うしょうた。

それにつられて、わたしも照れ笑い。

 

 

 

しょうたに引き寄せられて距離が縮まる。

 

 

しょうたの鼻と、ふわふわな猫っ毛があたってくすぐったい。

 

 

 『んふふ。』

 

「んーどうしたの?」

 

 『あのねしょうた。』

 

「ん?」

 

『わたし昨日、お店でつくね食べたの。でもすっごくしょっぱくて。周りの友達に言っても、皆しょっぱくないって言ってた。で、すぐに気づいた。しょうたはいつも薄味なんだって。あーわたししょうたの薄い味付けに慣れちゃったんだ、って。味覚まで変わっちゃったよ(笑)』

 

「そうなの?(笑)あはは」

 

 

『…わたし、しょうたの薄くて美味しい味付けが好き。しょうたの作るご飯が大好き。』

 

 

真剣に話していても、しょうたの顔をみてると、自然と微笑んでしまう。

 

柄にもないことを言ったら、そのあとが恥ずかしくなる。

 

 

じっと見つめあってたら、なんか恥ずかしくなってきちゃって、でも目を反らしたくない、って思えるぐらいには幸せで。

 

 

 

 

しょうたが少し表情を変えてこっちを見つめてくる。

 

…今度はなに?もしかして、拗ね…てるの?

 

 

 

「ねぇさやか。好きなのって、俺のご飯だけ?」

 

 

ちょっと意地悪そうに口角をあげるしょうたはほんとうにずるい。

 

 

 

『…そんなこと、聞かなくてもわかってるじゃん。』

 

「え〜ちゃんと言ってよ。さやか。ねぇ〜」

 

『…やだ!しょうたが言ってよ〜!』

 

 

少し恥ずかしくて、わたしが布団に潜り込んだら、しょうたも布団を頭まで被って、そんなことするから今度は布団の中で、顔を合わせてしまう。

 

わたしもしょうたもすごく笑ってて、こんな幸せな朝、これからもあるのかな〜って少し考える。

 

 

 

 

 

「さやか、好きだよ。」

 

 

 

布団の中で目があったしょうたに、不意打ちされた。

 

あまりにも甘い声で、優しい笑顔でそんなこと言うから、ドキドキが隠せない。

 

 

しょうたはそれを見抜いているのか、またわたしを引き寄せる。

 

 

 

「さやかこっちきて。おれだけの抱き枕なんだから〜」

 

『…なにそれ?(笑)ちょっとしょうたきついよ〜〜』

 

 

 

しょうたにぎゅーってされて、嬉しくて仕方ない。顔は絶対に赤いから、今は見ないでほしい。

 

 

 

 

 

「…さやか照れてるじゃん。」

 

 

 

 

 

溶けてしまいそうなぐらい甘くて、幸せな朝。

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------

 

 

 

相変わらず、狩りにも行くし、お弁当も毎日しょうたが作ってくれている。

夜は、しょうたがバイトに出かける。

とくに変わらない。

 

 

 

「じゃあ、いってくるね。」

 

『うん、がんばってね。いってらっしゃい。』

 

 

玄関で靴を履きながら言うしょうたを、後ろから見送る。

 

 

靴を履き終えたしょうたは、こっちを向いて立ち上がったかと思うと、構えていないわたしに、すくい上げるようにキスをした。

 

「さやか、いってきます。」

 

 

 

 

ドアが閉まって、隠しきれてないであろう口角を手でおさえる。

 

 

「…ただの同居人じゃない…んだね。」

 

 

 

 

毎日が幸せで、すっごく楽しくて、わたし、もうしょうたがここに来ていなかったことが考えられないよ。

 

 

ねぇしょうた、このまま、どこにも行かないよね?