渡辺図鑑 7

 

 

 

 

 

自分の部屋に入ったのはいいものの、なんであんなこと言っちゃったんだろうって頭でずっとぐるぐる考えて落ち着かない。

 

 

来ていたスーツのジャケットをかけて、わたしはしょうたのいるリビングに早足で戻った。

 

 

しょうたはさっきと同じで、ぼーっと固まっている。

 

 

居ても立っても居られないわたしの口が、また口走る。

 

 

 

『…今日は、すいませんでした。酔っ払ってた勢いだと思うので、忘れてください。ただの同居人なんで。』

 

ペコっと頭を下げる。自分でも何がどうなっているのやら。

 

また自分の部屋の方に帰ろうとするわたしの背中に、しょうたが小さく呟いた。

 

 

 

「…引き金引いといて忘れろなんて都合よすぎだろ…」

 

 

『…え?』

 

 

 

「…俺がどれだけ…毎日どれだけ我慢してると思ってるんだよ…!さやかにそうゆう気持ちを持っちゃいけない、さやかのこと好きになっちゃいけないんだって、どれだけ自分に言い聞かせてると思ってんの?」

 

 

『…なんで。しょうた、なんで我慢なんてするの??なんで好きになっちゃいけないの?わたしは我慢なんてしなかった、ううん、できなかったよ?』

 

 

しょうたはまた見たことのない顔をして、わたしのことをじっと見つめている。

 

昨日の顔とも違う、さっきの顔とも違う。

これは、怒ってるんじゃない。

 

 

 

 

『…引き金二回目。もう知らないから。』

 

 

 

『…しょうた?』

 

 

 

 

見たことのない顔でそう呟いたしょうたは、わたしの腕を自分の方に引き寄せた。

 

 

 

「もうただの同居人なんて言わせない。」

 

 

 

 

何が起きてるかわからないけど、今わたし、しょうたに抱きしめられてるってことはわかる。

 

 

 

顔をあげれば、目の前にしょうたの顔がある。

 

状況を飲み込めないわたしは、焦っているような、戸惑っているような、きっとそんな顔をしていると思う。

 

そんなわたしを、しょうたはまた、今までに見たことのない顔で、目で、見つめている。

 

 

 

そのまま、しょうたの顔が近づいてくる。

 

 

 

『…ちょっと待って、「待たない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてしょうたとキスをした。

 

 

 

ただの同居人の間違いじゃない。

 

 

 

 

しょうたの腕は力強くて、でもどこか暖くて、わたしの中のもやもやなんて、全部どこかへ消えてしまった。