渡辺図鑑 6

 

 

 

 

電車に乗って、先輩への相槌にも疲れた頃、最寄駅についた。

 

 

「「ここまで来たし、友達の家に行く前に、家まで送るよ。もう時間も早くないしね!」」

 

 

 

家か、今しょうた何してるのかな。

 

 

そういえばわたし何も連絡してないや、なんて一瞬考えたけど、わたししょうたの連絡先知らないんだった。

 

そっか、そうだよね。わたし、しょうたの何でもないんだ。ただ同じ家に住んでる、同居人だもん。

 

 

そんなことを考えちゃって、先輩の話はあまり耳に入ってこない。

 

 

 

「「…さやかちゃん!ちょっと、さっきから俺の話聞いてる?(笑)」」

 

『…え?あ、すいません。家…家までは大丈夫です。ここからは1人で帰れますから。ありがとうございました。あ、友達と、楽しんでくださいね。』

 

 

とりあえず丁寧に断った。聞いてくれるのかは知らないけど。

 

 

 

そんな会話をしながら先輩も一緒に改札を抜ける。

 

 

 

 

なんか、なんだろ、右側から視線を感じる。

 

なんとなくわかる、そんな気がした。

 

すぐに振り返ったら、眉間にシワを寄せたしょうたが壁にもたれてこっちを見ている。

 

 

 

またこの顔、昨日のしょうたと一緒だ。

いや、昨日より怒ってるかもしれない。

 

 

わたしの顔をじっと見て、こっちに歩いてくる。

 

 

『、、、、、。』

 

「…どこいってたの。こんな時間まで。」

 

『…会社の飲み会だよ。』

 

「「えっと〜さやかちゃん?…知り合い?」」

 

『あ、そうで「そうです。さやかの知り合いです。」

 

「「そうなんだ。どうも〜…。」」

 

 

しょうたはどこか後味悪そうな表情を浮かべて、いつもとは違う声で話す。

 

「で、友達の家ってどこなんすか?」

 

案の定、先輩は突然の出来事に驚いていることが隠せていない。

 

「「あ…えっと、えーっと…どっちだっけな…こっちかな…えっと……」」

 

先輩は、誰が見てもわかるぐらい動揺している。やっぱり嘘だったんだな、ってわたしにでもわかる。

 

 

「あの。タクシー乗り場ならあそこにあるんで。わかんないならタクシー拾ったらどうっすか。」

 

 

しょうたがあまりにも冷たい口調で話すから少し驚く、と同時に少し気まずい。

 

 

「「…そう…ですね!じゃ…じゃあ!さやかちゃ…いや河野さん!また明日…!!」」

 

 

先輩は慌てるようにどこかに歩いて行った。

 

 

しょうたも、何も言わずにわたしの三歩前ぐらいを早々と歩き始める。

 

 

私たちは家に帰るまでお互い、一言も話さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

家について、先に言葉を発したのはしょうた。

 

 

「意外だった。さやかって、愛想いいんだね。」

 

まただ、この冷たい話し方。

昨日の今日だし、わたしの中のもやもやが大きくなる。わたしの口調もきつくなってしまう。

 

 

『えなに?それは、明日も職場で会うんでね〜。愛想ぐらいよくしとかないとね。』

 

「へぇ〜。そーですか。」

 

『なにその言い方?だいたいなんなの?わたしに怒ってるの??ねぇなんで?”わたなべ”さんにわたしのこと、とやかく言う資格ないと思うんですけど。』

 

あ〜。自分でわかる、もうこれわたしもやもやが爆発しちゃって止まらないや。だめだ。

 

 

「…なんだよそ『しょうたの名字だって、わたしは知らないのにあの人は知ってた!しょうた、わたしには教えてくれなかったもんね。ハンカチだって、あの人にもらったんでしょ?わたしすぐわかったよ?差し出してくれたときに、あ、女の人に貰ったんだなーってすぐにわかった。自分はバイト先で楽しそうにしといて、わたしが帰り遅くなったからって、しょうたに何も言う資格ないよね?』

 

「…何言ってんだよ…そんなんバイト先に名字言いたくないなんて通用するかよ…!ハンカチもくれたから使わないと、捨てるわけにいかねーんだよ!…しかもバイト先で楽しそうにってなんだよ。先輩に嫌そうな態度で仕事するわけねーだろ。そんなさやかこそ俺にどうのこうの言う資格ないと思うけど。」

 

『わたしはあるよ、しょうたに言う資格ある!』

 

「…はあ?なんだよそれ…。さやかはよくて俺はだめなのかよ。」

 

『だってわたし…わたししょうたのこと好きだもん!わたししょうたのことが好きなの。だから、女の人からハンカチもらったのも、その人と一緒にバイトしてるのも、すっごいもやもやしたの。あーもう。すいませんねぇ、ただの同居人なのに。こんなの。』

 

 

「、、、、、、、、、。」

 

 

しょうたは固まってる。あーあ、わたし何してんだろ。やってしまった。ほんと、ただの同居人なのに。

 

 

 

勢いに任せてすぐ口走る、ほんとうに悪い口だ。

 

 

なんかそこに居られなくなって、とりあえず急いで自分の部屋に入る。

 

 

 

 

わたしの心臓だけがうるさく鳴っている。